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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)2764号 判決 1968年7月09日

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告は原告等に対し金二九六万二二八九円及び之に対する昭和四〇年四月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

(一)  被告は名古屋市中村区太閤通五丁目二〇番地の四中村センター区域に事業場を持ち、食料、衣料、小間物、雑貨その他日用品の小売販売を行う事業者でもつて組織され、中村センター協同組合定款第七条に規定する事業を営む協同組合であつて、昭和三二年に設立されたものであり、組合員の出資及び加入金で別紙目録記載の土地を購入し、その土地上に中村センタービルデングを築造したものである。

(二)  原告等の被相続人青山紋一は設立以来の被告の組合員であり、組合財産に対する持分は三一、三分の一・五であつたが、組合定款第一二条に基づき昭和三九年一一月一八日被告に対し脱退の通知をなし、該書面は同月二〇日被告に到達したので、昭和四〇年三月三一日限り被告組合を自由脱退した。

(三)  被告組合定款第一四条によれば、組合員が脱退したときはその持分の全額を払戻す旨規定され、中小企業等協同組合法第二〇条第二項によれば、持分は脱退した事業年度の終における組合財産によつて定める旨規定されているから、亡紋一の払戻を受けるべき持分は昭和四〇年三月三一日現在における組合財産によることになるところ、該財産は別表(一)記載の通り資産合計金一億三九五〇万五四六五円、負債合計金七八五六万六二二六円、差引正味財産金六〇九三万九二三九円となり、亡紋一の持分は三一・三分の一・五であるから金二九二万〇四一〇円となる。

(四)  亡紋一は被告に対し左の通り総計金四三万三一二一円の債務を負担する。

(1)  昭和三九年一〇月六日から昭和四〇年三月三一日までの未払金及び立替金合計金二五万〇一九八円

(イ)  店舗使用料(一日金八五五円)、宣伝費(一日金二三二円)、協力費(一日金八円)計金一九万三八一五円(一七七日分)の未払金

(ロ)  店舗清掃費金五五三七円、上下水道料金三一六九円、電気料金三万四八〇二円、年末売出分担金一万二八七五円、計金五万六三八三円の立替金

(2)  昭和四〇年四月一日から同年九月三〇日までの店舗使用による左記損害金合計金一八万二九二三円

(イ)  賃料相当損害金    八万七〇〇〇円

(ロ)  協力費金         一四六四円

(ハ)  宣伝費金       四万二四五六円

(ニ)  電気料金       三万九九〇七円

(ホ)  上下水道料金       六四二四円

(ヘ)  清掃費金         五六七二円

(五)  亡紋は被告に対し(1)昭和三二年六月二九日金一五万円、(2)昭和三八年一月三一日金一〇万円、(3)同年二月二〇日金一〇万円、(4)同年七月二七日金一〇万五〇〇〇円、(5)同年九月三〇日金五万円、(6)昭和三九年二月九日金一五万円合計金六五万五〇〇〇円を貸与したのであるが、その後内金一八万円の返済を受けたので、残金四七万五〇〇〇円の貸金債権を有する。

(六)  青山紋一は昭和四三年三月二日死亡し、妻である原告八重子、子である原告正紀、同昇がその相続をなした。

(七)  そこで、原告等は被告に対し払戻を受けるべき持分金二九二万〇四一〇円と貸金四七万五〇〇〇円合計金三三九万五四一〇円から債務金四三万三一二一円を控除した金二九六万二二八九円及び之に対する昭和四〇年四月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と陳述し、被告主張の相殺の抗弁を否認した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁並びに主張として

(一)  原告の主張事実中(一)のうち被告が中村センタービルデングを築造した点を除くその余の事実、(二)の事実、(三)のうち被告組合の財産及び亡紋一の持分額を除くその余の事実、(四)の事実(五)のうち被告が亡紋一からその主張の(2)、(4)ないし(6)の貸金合計金四〇万五〇〇〇円を借受け昭和三九年一一月二五日金一八万円を返済したこと、(六)の事実はいずれも之を認めるけれども、その余の事実を否認する。

(二)  被告は昭和三二年に設立(登記は昭和三三年二月二九日)された協同組合であり、設立当初は別紙目録記載の土地上に木造建物を所有して組合員が同建物内に各店舗の割当を受け、同所において商売をしてきたのであるが、昭和三七年に至り右木造建物は附近の一般店舗に比べ貧弱なものとなり、組合員の営業上も好ましくなく、また組合の経済的基盤も固まつたので、右土地上に恒久的高層耐火建築物(中村センタービルデング)を建設し、そのビル内に組合員が店舗を出して営業する計画をたてた。しかるに中村センタービルデングを建設するにつき建設資金の借入に際し融資先である諸銀行、商工組合中央金庫等より協同組合である被告には多額の融資ができない旨の申出があつた。そのため昭和三七年一月一九日被告加入組合員が全員株主となつて訴外株式会社中村センタービルデング(資本金二〇〇〇万円)を設立し、被告は右土地を同訴外会社に賃料年額金四二〇万円で賃貸し、同会社が同地上に中村センタービルデングを建設した。そして、被告は右ビルの一部(地下一階及び地上一、二階)を同会社から賃料年額金七五六万円で賃借している。

(三)  被告の昭和四〇年三月三一日現在(昭和三九年会計年度末)における財産は別表(二)記載の通り積極財産が預金、土地、設備及び備品等合計金九三七四万三三〇六円、消極財産が借入金、仮受金、工事未払金等九二二五万八四三二円であり、差引純財産額が金一四八万四八七四円であるから、亡紋一の持分は金七万一一六一円である。

(四)  右積極財産における土地の評価は取得価格(簿価)主義によつているのであるが、仮に右土地の評価が時価によるものとするならば、その価額は四名の鑑定人のうち後藤鑑定人の借地権ある場合の価格金一九四三万七〇〇〇円が採用されねばならない。この場合の亡紋一の持分は金八五五万三八七四円(右鑑定価格と土地の簿価金一二三六万八〇〇〇円との差額に金一四八万四八七四円を加えたもの)の三一・三分の一・五である金四〇万九九三〇円である。

(五)  被告は亡紋一に対し左の通り合計金三五万八七七二円の立替金等債権を有するので、右債権と亡紋一が被告に対し有する債権とを対当額において相殺の意思表示をなる。

(1)  国民金融公庫借入金返済負担金五万三五九五円

被告はかねて国民金融公庫から金四七〇万円の借入をしていたところ、右借入金の返済が滞るに至つたので、昭和四〇年一月被告の総会における決議により組合員が昭和四〇年三月末現在における残元本金一〇三万四〇〇〇円、利息金八万五〇五〇円合計金一一一万九〇五〇円を組合員の持店舗割にして負担することとした。亡紋一の負担金は一一一万九〇五〇円の三一・三分の一・五である金五万三五九五円であるが、同人がその支払をしないので被告が立替えて支払つた。

(2)  商工組合中央金庫借入金返済負担金七万六六七七円

被告は昭和三八年三月三日商工組合中央金庫から二口合計金三五〇〇円の借入をなし、以後毎月分割返済してきたのであるが、昭和三九年末頃から返済資金に窮してきたため、返済条件の緩和を求めて同金庫と交渉した結果契約の変更をなすこととなつた。しかし同金庫はその条件としてすでに滞納していた昭和三九年五月から昭和四〇年二月末までの利息合計金一六〇万円を昭和四〇年三月末までに返済することを主張したので、被告は組合員の決議に基づき右利息を店舗割にして組合員に負担させた。亡紋一の負担金は金七万六六七七円であるのに、同人がその支払をしないので、被告が立替えて支払つた。

(3)  県近代化資金借入金返済負担金一二万三五〇〇円

被告は昭和三九年四月二七日愛知県から共同施設設置資金として金一六六〇万九〇〇〇円を借受け毎月分割返済してきたのであるが、その返済資金にあてるため組合の決議により組合員は昭和三九年七月一日から一日金五〇〇円の返済積立金をしていた(但し被告の店舗休日は除く)。亡紋一は昭和三九年七月一日から昭和四〇年三月三一日までの合計二四七日にわたりこの積立をしなかつたので、被告がその合計金一二万三五〇〇円を立替えて支払つた。

(4)  組合債務弁済特別協力金一〇万五〇〇〇円

被告は昭和三九年会計年度中に支払資金の不足をきたしたため、総会の決議により組合員が一店舗当り金七万円の特別協力金を拠出することとなつたのであるが、亡紋一の店舗割合が一・五店舗であるから、その金額は金一〇万五〇〇〇円であるのに同人はその支払をしない。

と陳述した。

(立証省略)

理由

一、被告が名古屋市中村区太閤通五丁目二〇番地の四中村センター区域に事業場を持ち、原告主張の事業者でもつて組織され、中村センター協同組合定款第七条に規定する事業を営む協同組合であつて、昭和三二年に設立されたものであり、組合員の出資及び加入金で別紙目録記載の土地を購入したこと、原告等の被相続人青山紋一が設立以来の被告の組合員であり、組合財産に対する持分は三一・三分の一・五であつたが、昭和三九年一一月一八日被告に対し脱退の通知をなし、該書面が同月二〇日被告に到達したので、昭和四〇年三月三一日限り被告組合を自由脱退したこと、青山紋一が昭和四三年三月二日死亡し、妻である原告八重子、子である原告正紀、同昇がその相続をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、亡紋一の払戻を受けるべき持分額について

(1)  被告の昭和四〇年三月三一日現在における組合財産のうち左記の部分については当事者間に争いがない。

<省略>

そこで、以下争いのある部分について順次判断する。

(2)  資産の部における土地評価

成立に争いがない乙第一号証(財産目録)によれば、土地は金一二三六万八〇〇〇円と評価されていることが認められるのであり、被告は右評価は取得価格(簿価)によつた旨主張する。

しかしながら、持分払戻の際における土地評価は取得価格によるべきではなく、時価によるべきものと解すところ、鑑定人後藤一男の鑑定の結果に徴し右時価は金一九四三万七〇〇〇円であると認めるのが相当であり、之にていしよくする鑑定人柘植鉦太郎、同早川友吉、同近藤信衛の各鑑定の結果は採用しない。

(3)  資産の部における原告主張の立替金及び未収金

右乙第一号証によれば、右立替金及び未収金は財産目録に記載されていないけれども、成立に争いがない甲第七号証の一、二、証人伊藤富夫の証言によれば、立替金八二万五一五九円及び未収金一〇万五〇〇〇円の存在が認められる。

(4)  資産の部における原告主張の貸付金

原告は貸付金一二〇万円の存在を主張するけれども、之を肯認するに足りる確証がない。

(5)  負債の部における未払金及び中村センタービル勘定

右乙第一号証、証人伊藤富夫、同河野勲の各証言、被告代表者尋問の結果を総合すれば、未払金三三六万円及び中村センタービル勘定金一〇三三万二二〇六円の存在が認められるのであり、之にていしよくする証人近藤森義の証言は措信しない。

(6)  以上の次第で、右(1)の資産の部合計金八一三七万五三〇六円に、(2)の金一九四三万七〇〇〇円及び(3)の合計金九三万〇一五九円を加えると、資産の部は合計金一億〇一七四万二四六五円となり、(1)の負債の部合計金七八五六万六二二六円に(5)の合計金一三六九万二二〇六円を加えると、負債の部合計金九二二五万八四三二円となり、正味財産は金九四八万四〇三三円となるから、亡紋一の持分額はその三一・三分の一・五である金四五万四五〇六円となる。

三、亡紋一の貸金について

亡紋一が被告に対し昭和三八年一月三一日金一〇万円、同年七月二七日金一〇万五〇〇〇円、同年九月三〇日金五万円、昭和三九年二月九日金一五万円合計金四〇万五〇〇〇円を貸与したことは当事者間に争いがない。

原告は亡紋一が昭和三二年六月二九日金一五万円、昭和三八年二月二〇日金一〇万円を被告に対し貸与した旨主張するけれども、之に副う原告青山紋一の本人尋問の結果は甲第六号証の二及び六と対比してたやすく措信しがたく、他に之を肯認するに足りる確証がない。

そして、被告がその後金一八万円を返済したことは当事者間に争いがないから、亡紋一の貸金額は之を控除して金二二万五〇〇〇円となる。

四、亡紋一の債務について

亡紋一が被告に等し合計金四三万三一二一円の債務を負担していることは当事者間に争いがない。

五、亡紋一の請求金額について

亡紋一の持分額金四五万四五〇六円に貸金二二万五〇〇〇円を加えると金六七万九五〇六円となり、之から債務金四三万三一二一円を控除すると金二四万六三八五円となるから、被告は亡紋一に対し金二四万六三八五円を支払うべき義務がある。

六、被告主張の相殺の抗弁について

各成立に争いがない乙第二号証、乙第三号証の一、二、乙第八号証、証人伊藤富夫の証言によつて成立が認められる乙第四号証、証人江上春雄、同伊藤富夫の各証言、被告代表者尋問の結果を総合すれば、被告はその主張の通り亡紋一が支払うべき国民金融公庫借入金返済負担金五万三五九五円、商工組合中央金庫借入金返済負担金七万六六七七円、県近代金資金借入金返済負担金一二万三五〇〇円合計金二五万三七七二円を立替支払つたことが認められるのであり、之にていしよくする原告青山紋一の本人尋問の結果は措信しない。

被告は亡紋一が負担すべき組合債務弁済特別協力金一〇万五〇〇〇円の未払がある旨主張するけれども、右特別協力金を亡紋一が負担すべきものである点については之に副う被告代表者尋問の結果は証人近藤森義の証言と対比してたやすく措信しがたく、他に之を肯認するに足りる確証がないから、被告の該主張は採用することができない。

してみると、亡紋一は被告に対し右金二五万三七七二円を支払うべき義務があるから、被告の相殺の抗弁は理由がある。

七、よつて、原告等の本訴請求は失当として之を棄却することとし民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。

別紙目録

名古屋市中村区太閤通五丁目二〇番の四

一、宅地    一一九・〇〇平方メートル(三六坪)

右同所二〇番の九

一、宅地    一四〇・四九平方メートル(四二坪五合)

名古屋市中村区名楽町一丁目四一番の二

一、宅地    五九七・二二平方メートル(一八〇坪六合六勺)

別表(一)

<省略>

<省略>

別表(二)

<省略>

<省略>

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